クリエイティブの共創が生み出した、ブランドCM制作の裏側
2021年10月23、24日に行われた日本最大級のデザインカンファレンス「Designship」のスポンサーCM枠でゆめみの企業CMが流れました。CM動画は、以前お伝えしたリブランディングプロジェクトを行ったブランディングチームが、Designshipで配信する目的で一から開発したものです。
今回のCM開発プロジェクト(CM本編映像開発+モーションロゴ開発)もリブランディングプロジェクトの時からお世話になっている、MIMIGURIさんとタッグを組んで進めていきました。
ゆめみの想いを汲み取るところから、最終的なアウトプットに至るまでご尽力いただいた、MIMIGURIの山内さんをゲストに迎え、開発の背景や具体的な進め方、込められた意図などを記事としてお伝えできればと思いますので、最後までお楽しみください。
意思決定の背景と注ぎ込まれた熱量
―Designshipで流れたCMはとてもインパクトがありましたが、CMを作られたきっかけや経緯について教えてください。
栄前田:経緯としてはDesignshipのスポンサーになったところからの話になりますね。最初のスポンサー募集が個人のスポンサーから始まり、私が個人的にスポンサードしていて、その後で企業のスポンサー募集が始まったんです。ゆめみがデザインに投資をしているフェーズであることやプレゼンスを高める目的もあり、日本で一番大きなデザインカンファレンスであるDesignshipの企業スポンサーになりたいという話を代表の片岡に伝えたところ、「ダイヤモンド(最上位のスポンサー枠)いっちゃいなよ!」と二つ返事でOKが出て。それでダイヤモンドスポンサーとしてDesignshipに参画することになりました。当初はゴールドくらいでいいと思っていたんですが、結果的に片岡の先見性もありダイヤモンド枠にしました。実際にVISIONALさん、FJORDさんと並んでゆめみの名前が入っているのを目にした時は、すごいと思いましたね。
ダイヤモンドスポンサーになると1分間のCM枠をいただけるんですが、やるならきちんとコストをかけてやりたいという気持ちと、前回のリブランディングの中でモーションロゴが保留になっていたこともあり、それも含めてやろうという話になりました。
そこからすぐに着手して、2ヶ月くらいで作り上げたと思います。3ヶ月はなかったんじゃないかな。
工藤:始まりは栄前田の衝動と熱量が高くて。ダイヤモンドスポンサーでいくのであれば、素晴らしいCMを持ってDesignshipに臨まねばなるまい! という情熱がすごかったのを覚えています。それがMIMIGURIさんにも伝わった結果、山内さんが迅速に準備を進めてくださったのが印象として強く残っていますね。
栄前田:今の話で思い出したんですけど、工藤と太田に話すか話さないかのタイミングでMIMIGURIさんに打診していました。正確には打診をしたというより、MIMIGURIさんでCMを作ったことがあるかどうかを確認していたという感じかな。たしか夜に相談をしたんですが、すぐに山のように実績が送られてきました。あれはすごかったですね(笑)。
太田:その熱量やスピード感に栄前田が喜んでいたのは覚えています(笑)。
工藤:私の場合、立場上は取締役なのでマーケティング投資も含めて全体を見ていて、会社としてどのようなスポンサーになるのか客観的に把握はしていたんです。それで他のイベントと比べた時に、特にこのDesignshipに対しての栄前田の熱量が高く何か特別感があると感じて、こちらも火がついたというか、やる気が一気に出てきましたね。栄前田がここまで言うんだったら、何かしらのチャンスだったりゆめみの成長に必要なものがあるんだろう、というある種の信頼感がありました。きっと私の持っている情報がもっと少なかったとしても、よっしゃ!乗っかるぞ! という気持ちにはなっていたと思います。
栄前田:やばい、泣きそう(笑)。もともとDesignshipには毎年観客として参加していて、どういう内容なのかを知っていたのも大きいかもしれません。デザイン関連のイベントって今はあまり元気がないんです。ゆめみでスポンサーになっているイベントで開発関係のものはいくつかあるんですが、規模の大きなデザイン関連のイベントはほとんどない。そういう中でDesignshipは、ゆめみが注力しようと考えている、サービスデザインやビジネスデザインも踏まえた大きなイベントなんです。それに採用目的で考えても、観客の幅が広く若年層も多いので、会社としてデザインにしっかり力を入れていることをアピールする場として意義があると思ったんです。なので、個人でスポンサーになりつつ社内にも相談をしたという感じです。
いくら私の熱量があってデザイン業界を盛り上げようと思っても、メディアへの寄稿や登壇は個人単位の動きになってしまうので、ゆめみという組織をデザイン領域で立たせる必要があります。そういう意味でもDesignshipは大きな舞台だなと。ゆめみがデザインにもしっかりと取り組んでいることを、たくさんの人に知ってもらいたいと思ったんですよね。
工藤:会社の状況でお話しすると、エンジニアからの認知はどんどん上がってきていて、市場全体を見てもアプリ開発やモバイルに強い会社らしい、という認知はされているんです。ただ、アプリ開発会社のような認知になってはいるんですけど、それはあくまでもHowの話であって、なぜゆめみが市場に存在していて組織を拡大しようとしているのか、今後どんな方向に進むのかを示すアウトプットがそんなになかった。その認知の殻を破って広げたいという思いはもともと持っていて、職種に特化したイベントやオープンソースコミュニティには投資をしていこうというスタンスではあったんです。なので、組織としての課題感と栄前田の課題意識がうまくマッチングした瞬間だったと思います。
太田:現状ではデザインを職能として持つチームについて、これからしっかりと考えていく段階ではあります。私も栄前田と同じで、Designshipには以前から観客として参加をしていたので、イベントの内容は分かっていましたし、ゆめみが組織としてデザインに力を入れていくという、意思を伝える場として打って付けだと考えていました。その共通認識が揃ったので、一緒にやっていこうという気持ちになったのを覚えています。ただ、プロジェクトとして現場のデザイナー組織がリードをするのか、全社的にブランディングチームとしてやっていくのかについては、最初にすり合わせをしました。それぞれでやり方が変わるので、ブランディングチームが引っ張っていく意義を、きちんと目線合わせしてから進めていきましたね。
あと、プロジェクトの初期プロセスでMIMIGURIさんにワークショップをしていただいて、「何を打ち出したいのか、誰に届けたいのか」などの意見を出し合いました。そこでメンバー全員、デザイナーイベントのためだけのものじゃなくて、このCMを汎用的に他のイベントでも活用したいという気持ちがあることが分かったので、落としどころを探しながら、結果的にデザインがデザイナー職種のものではなくて、全社的にデザインはツールであり技術であるという認識を揃えていけたのは大きかったかなと思っています。
ゆめみが考えるリブランディングとブランディング
―リブランディングは誰かの力を借りて進めている状態、ブランディングは自分たちで出来るようになったという認識を持った上で施策を打っている状態、というお話を以前されていました(BRAND NEW ゆめみ - ロゴリニューアルとリブランディング 【未来編】参照)。今回のCM自体、または最後に入るモーションロゴはどちらでしょうか?
工藤:今回、映像とモーションロゴができたことで、我々はツールを手に入れた感覚を個人的に持っているんですね。これを使いこなしてデザインとは別の文脈のイベントに露出したり、他の何かに応用していく中で意図を問うことになると思います。それがブランディングを我々が自ら行なっている状態だと言えるので、スタート地点に来たという意味合いでリブランディグとブランディングの中間点というイメージです。
もともとロゴをリニューアルする過程で「成長因子」についての言語化をしましたが、現在は「CorporateBASICs」という、社の持つパーパス、ミッション、バリューをどんどん言語化していっている最中で、これを外向けに発信するための構造化を3人で進めているんです。この行為そのものは他の人の手を借りていないけれど、リブランディングの礎になると考えています。それは映像のコンセプトとも接続されてきますし、蛹(さなぎ)の中で変態していっている状態が映像プロジェクトと並行して行われていると思っていて、かつ前回のロゴリニューアルプロジェクトでDI(ダイナミックアイデンティティ)展開というものが残っていたので、まさにモーションロゴの動きで回収できたんです。前回のプロジェクトから今への接続点になった、という意味でも中間点という。
なので、リブランディングとブランディングの中間点という意味でまとめると、自分たちで使えるツールができた、内部でCorporateBASICsを言語化することで社外との設置点を自分たちで考え直している、前回のロゴリニューアルからの流れが一区切りできた。この3つですかね。
問いをギフトとして届ける? 60秒で伝えたかったこと
―CMの中で伝えたかったこと、表現したかったことを教えてください。
太田:大前提として外したくない枠のようなものをゆめみで設定をして、表現の仕方についてはMIMIGURIさんのディレクションやクリエイターさんに委ねました。具体的には、ワークショップで様々なクリエイティブの方向性を並べながら、「ゆめみの今」にふさわしいか否か認識合わせをしていきました。先ほどもお伝えした通り、デザイナー組織に向けて話すCMではなくて、ゆめみがデザインというものをどう扱うかの視点を取り入れて、クリエイティビティの高さも目指すことに注力しました。
栄前田:映像を鑑賞する中で、新たな解釈や意味の付与を行なった部分もあるんですけど、今の太田の話を聞いて思い出したのは、やはりDesignshipのCMで使うということで、実際にCMが流れる際の視聴者の状況・視聴環境を想定して、映像の機能要件を定めたところはあったと思います。今年のDesignshipはオンライン開催であった点、そしてセッションとセッションの間の休憩時間に流れので、視聴者の方々が離席されたり別のブラウザを開いたりと、イベント配信画面から目を離す可能性が高い。だからこそ目ではなく耳、つまり音で注目を引きたいというところと、連続して流れる他社のCM群に埋もれないようにユニークさを出すべきだ、という2点。そのためにどういった表現が必要かを考える中で、MIMIGURIさんから60秒のCM配信枠に対して、60秒尺1本のCMではなく、30秒尺2本のCM構成にしましょう、というご提案をいただいて、それは秀逸だったなと思います。一度終わったけど、また始まるのはいいなと感じました。
工藤:当時の対話を思い出すと、我々が社内で話し合う時って、自然と抽象度の高い方にいく傾向があるんです。それを今回は具体的な表現まで落とし込むべきか、むしろ抽象度の高いまま表現すべきか、そのバランス感について時間をかけて話しました。結果的に今回は意図して抽象度の高い表現をする、という選択をしました。そのアウトプットを通して、見てくださる人に違和感というか「問い」を残したかったんですね。
一般的にサービスCMやブランドCMは、具体的に分かりやすく情報を届けるケースが多いと思うんですが、できるだけそれを避けて相手に「ん? どういうことだ?」と思ってもらえることを狙いにしようと決めたんです。特にDesignshipに参加される方々は、抽象的なものにこそ解釈を探求する姿勢があるはずだ、と仮説を立て見てくださる方々の創造性に委ねるという設計を試みました。このCMに込める意図や目線がそこでしっかりと揃い、アウトプットイメージも山内さんからピッタリなイマジネーションがどんどん出てきた印象がありますね。なので、問いをギフトとして届けるというか、一緒に何か気付きながら考えませんか、ということをメッセージとして出したかったんです。
―抽象度の高い表現の中で、問いかけの根幹にあったものとは何でしょうか?
工藤:私の考えをまとめたものになってしまいますが、「変化し続けること自体が普遍的である」という前提にしたかったんですね。変わり続けることが当たり前の世の中という前提の上で、CMを見た方々が自分事として捉えた時に、職種や業務というミクロな部分の変化と捉えるのか、家庭や社会での在り方といったマクロな視点で捉えるのか、どのレイヤーで考えるかは見る人に委ねたかったんです。
その中での関係性や接続性、他者と自己の境界があるのかないのか、組織の枠で考えると内側と外側など、そういう二面性を変化とフラクタル的な関係性の中で、自分の在り方について何かしら考えるきっかけや気付きになるような構造にしたかったんです。非常にミニマルでフラクタルなモチーフで作りたいと考えていました。
太田:特徴的だったのは、各要素が何を表したものなのか、開発チーム内でもあえて答え合わせを行わなかったことですね。。こう考えられるよねとか、ここをこう見るとこうだよね、という会話はそれぞれから出たものの、それを断定したり否定したりもせず、自分にはこう見えたという意見を発散するだけして(笑)、最終的にこの映像を見た人が何をどう捉えるのかは自由であって、かつそこに違いが生まれることに、意味を持たせるべきなのではないか?と山内さんもおっしゃっていて。あえて意味や意図を定義し切らず、答え合わせもせずに進めたのは印象に残っていますね。
工藤:たしかに、どう見えるかみたいな話は多少ありましたけど、それでもメタファーを断定するのは避けましたね。実際にPJ外の社内メンバーの発話で面白いなと思ったのは、「今のゆめみの良いところも表しているけど、不確実性や不安定感、脆さのようなものも同時に表しているよね」と言ってくれた社員がいて、そういう見方もあるのかと。その人が発話することで、作った当人たちにとっても新鮮な見方や気付きがあったり、新たな問いが出てくるということが起きました。このCMに込めた意図を自分たちで改めて体験することになり、とても面白かったですね。
―2本のCMそれぞれに同じベースの異なるメッセージ(「変化し続ける、輪郭。」と「変化し続ける、ゆめみの輪郭。」)がありましたが、「ゆめみの」という所有格がつく、つかないで伝えたいメッセージ性に違いはあったのでしょうか?
工藤:ようこそ、問いの世界へ(笑)。この反応を呼び出したかったんだ!
太田:プロセス的な話をすると、実は当初メッセージ自体を映像に入れていませんでした。私たちは先ほどの工藤の話の通り、抽象度を高く考える傾向があるんですが、CMという機能面を考えた時に、とはいえもう少し見る人の目線で分かりやすさ、もしくは解釈の余地が必要なんじゃないかという話が出たんですね。メッセージを入れることによって、問いの観点を一つだけ意図的に加えるというのもありだなと。ただ、そこに「ゆめみ」という言葉を入れるかどうかで意見が割れたんですね。どちらの気持ちも分かるので、3人の中で答えが出なかった。それなら、もともと考えていたDI(ダイナミックアイデンティティ)という視点で、プロトタイプ的に両パターン作って市場に出して見てみるのもありなんじゃないかという話になって、CMの前半と後半で変えたんです。
工藤:抽象度の高さ云々でいうと、もしかしたらメッセージのヒントが必要な人もいるかもしれないと考えた時に、あえて片方に「ゆめみの」という所有格をつけることで、これってゆめみを表しているんだという思考の始まりになり、一つの捉え方としての気付きを与えることになるかなと。それだけではなく、実際は個人、つまり自分自身にも当てはまるんじゃないか、と考える呼び水になればいいなと思っていました。今後どのように使いこなしていくかの議論はその都度あるかなと思いますけど。
栄前田:MIMIGURIさんを含めた開発チームの中でたくさん議論と対話があって作られたんですけど、Designshipの二日間ずっとゆめみのSNS係としてtwitterを見ている中で、二つの違いを持たせたからこその印象を与えることはできたかなと思います。
太田:実はまだあまり大々的に打ち出してはいないんですが、ゆめみは「アート組織」という側面でも動いていて。アートって、それぞれが感じたものが全てというか、答え合わせはあえてしない方がいい、解説は無粋だ、ということを、改めて考えさせられるプロセスにもなったのかなと思います。
工藤:観察者による考察を尊重する、みたいなところは凄く考えてますね。
太田:そうそう。
ジェネラティブアートが持つ有機的な変化
―CMで使われた表現はジェネラティブアートと呼ばれるものだと思うのですが、この表現を選択した理由があれば教えてください。
工藤:表現についていくつかアプローチ方法がある中で、イベントに参加しているオンライン視聴者の目的をきちんと考えると、あくまでもイベントのセッションを観ることが目的なんですよね。なので、基本的にCMには興味を持たず休憩時間になるわけで、先ほど述べた通り、何かしら振り向かせる仕掛けのようなものが重要だと考えました。
そういう意味では音と、初見では意味が分からない、頭に「?」が浮かぶようなものが必要だよねと。一回で分かってしまうと二回目、三回目ではもう飽きてしまうので、それを避けるための施策が欲しかったんです。もう一回ゆめみのCMを見たいんだけど、という体験をイベント現場で作りたいと思ったんですね。
手法としてGIFの画像がずっとループしていたり、有名なエッシャーの階段の絵みたいに「どうなってんのこれ?」と思わせたり、数秒かけて絵の中のものが消えたり出てきたりするアハ体験のようなものとか、ある種の体験装置をCMに応用することで、視覚や聴覚に効果的にアプローチすることができるんじゃないかという戦略仮説を山内さんと話していました。
対話を深めていくうちに辿り着いたのがジェネラティブアーティストの小西芽衣さんで、音楽に関しては山内さんがお知り合いだったトラックメイカーであるTiMTさんの起用に繋がったんじゃないかと思います。
太田:あとはジェネラティブアートの思想自体がエンジニアリングと紐づいていて、ゆめみという会社組織を考えた時に、開発とデザインをつなげるような表現ができるといいよね、という話で一気に合意が進んだような記憶があります。
栄前田:ジェネラティブアートが今のゆめみにピッタリとハマると思うんですよ。エンジニアリングもあるし、有機的に変化し続けるということも言えるし、固定化しない。
この「固定化しない」という言葉は、代表の片岡も話をする際によく使っているので、ゆめみにとって大切な言葉なんです。ジェネラティブアートは生成されていく過程で、少し何かが変われば全てが変わっていくというのが有機的でつながりを感じさせる。そこが今回しっくりきたポイントかなと思います。
山内:小西さん起用の背景について少しお話しすると、TiMTさんだけじゃなくて、もともと小西さんとも友人だったんです。企画を詰める過程でクリエイティブ表現やその体現手法を探っていき、日常の外側、非日常の想像を超える世界観というか、見たことがない世界を前提に映像を組み立てる方が「問い」を生むという考え方に合致するのではないかという着想を得ました。それが結果的にジェネラティブアート自体のもつ特性と連動して、意味に重なりが生まれましたね。ゆめみさんとの対話を進めていく中で、そんな世界を形にするのであれば、小西さんが適任だと。彼女の日々のアート生成プロセスが、プロジェクトの意図とも親和性が高く、「これだ!」という確信めいたものがあり、小西さん一択でご提案しました。
―企画を経て、実際にクリエイターとの映像開発に入ってからは、思想の共有やディレクションをどのように行われたのでしょうか?
山内:実は、プロジェクトメンバー全員でやりとりを進めたのではなく、小西さんとTiMTさんに関しては私に一任していただいていました。なので、実際にお二人とどのようなやりとりをしていたのか、ゆめみのみなさんは知らないまま完成を迎えているんですよね(笑)。
工藤:そうですね(笑)。とはいえ、中間成果物のような形で毎週アップデートされたものを確認はさせていただいていましたし、割と早い段階で構成も見えていたと記憶しています。
栄前田:MIMIGURIさんにモーションロゴを作成してもらっていて、その進捗報告と並行してCM映像も見せていただきながら、という形で進めましたね。あと、後半に入ってからは山内さんが打ち合わせの場で、Adobe Premiere Proを立ち上げて、対話をリアルタイムで反映しながら構成を調整したり文字を入れてくれたりと、それで一気にクリエイティブに関するやりとりが加速した気がしますね。
工藤:今回のケースは、我々がクリエイターさんと直接やりとりしない方が上手くいったプロジェクトだと、改めて振り返っても思いますね。
栄前田:山内さんがゆめみの意図やイメージを完全に汲み取っていただいていたので、クリエイティブディレクション部分は完全にお任せしていましたね。
山内:おっしゃっていただいた通りで、クリエイターのお二人にたくさんのインプットをしてもらうという進め方を今回のディレクションではあえて取らず、ゆめみさんと一緒に練り上げていった込めたいキーワードだけをお渡しし制作に着手してもらったんです。
設計プロセスはしっかりと戦略性と持続性を持って組み立て、開発プロセスはクリエイターご本人たちの持つ世界観や作家性を存分に発揮していただき、ゆめみさんが目指す世界との接合点をMIMIGURIが担うという観点でディレクションを行いました。結果的にそれが絶妙なバランスを生むことになったのではと感じています。太田さんが先ほどおっしゃっていた、「あえて答え合わせをせず、自由を肯定する」という方針とも親和性が生まれましたね。
工藤:小西さんは日常的にジェネラティブアートを研究されていたので、今回のCMにフィットするアウトプットの引き出しをおそらく既に持っていらっしゃったんですよね。その中でゆめみのテーマ性やメッセージに沿ったものをチューニングしていただいた印象もあったので、ご提案の一発目から手応えは感じたんです。あくまでも私の印象ですけど、小西さんもTiMTさんもゆめみの組織や事業について、文字情報になっているものをたくさんインプットして左脳で理解を深めるというよりも、お二人の持つ直感性だったりアートに対する衝動のようなものが前に出てきたことで、やはり一発目から凄かったなと思いました。
栄前田:最後まで調整にこだわったのは音楽ですかね(笑)。
工藤:そこは、めちゃくちゃこだわらせてもらいましたね。私がそもそも音楽に関心が高い人間なので、ヘッドホンを使って大きな音で聴いたり、反対に凄く小さい音で聴いたりしながら、割とクリエイター目線で確認をしていたんです。メッセージ性に関してはもちろんブランディングとして見るんですけど、音に関してはそうではなく、発注者という立場ではありつつ私も一緒に作りたいという衝動があったんですよね(笑)。なので、音楽に対するフィードバックがクリエイター目線になる部分があり、良い意味で私からもぶつかりにいく経験ができました。最終的には山内さんがバランスを上手にとってくれて。当時出た言葉が「作家性」という言葉なんですけど、TiMTさんが織り成していくクリエイティビティを尊重しながら、どう最終アウトプットとして昇華するかの線引きを山内さんが担ってくださったので、音楽の入れ方についてはギリギリまでお時間をもらって考えさせてもらいましたね。
山内:音楽に関しては、工藤さんの想いや熱量から生まれるフィードバックを反映させてより良いものにしたいというプロジェクトオーナーとしての視点と、TiMTさんがキーワードから生み出した音楽とその作家性を純粋な状態で「問い」に昇華させたいクリエイティブディレクションの視点。両者の価値観や作為性を、今回の企画のテーブルに並べた時にどのような着地が望ましいか、せめぎ合いでしたね。このプロジェクトで一番悩んだ部分かもしれません。ただここでもどの表現が良い悪い、正しい正しくないという観点ではなく、CM自体が何を伝えたいのか、どうすればプロジェクトメンバーの中でも「答え」ではなく「問い」として形を維持し続けられるか、の観点から止揚し、良い着地を迎えられたのではないかと思います。
まずは小西さんのコメントから。
問いを生む体験を通して自分事になっていく
―今後、CMをどのように活用していくのか想定があれば教えてください
太田:先ほど、メッセージのところで少し迷ったプロセスがあったのをきっかけに、全社的に映像にメッセージを入れるワークショップを考えたりするのも面白そうだよね、という話をしており、それは早いうちに実施できればと思っています。社内のエンジニアに相談して、メッセージの部分だけ各自がオリジナルの文言を入れられるような仕組みを作ってもらったり。そうした中でCMの社内設計も作れたらと考えています。
栄前田:自分自身で言語化して映像に乗せるという体験を通して、映像はもちろん、ゆめみの今を自分事にしていく意味でも、その施策が持つ意義はあると感じています。もう一つ、ゆめみのコーポレートサイトのトップページにこのCM映像を掲載しようという動きも出てきています。
工藤:一般的な映像の納品は、出力された映像ファイルになると思うんですけど、今回は編集ファイルもいただいているので、例えば2本立てになっているものを切り離して片方だけ使うとか、イベントの内容に合わせてメッセージの内容を変えるといった実験もできる。そのようなツールとしても機能を持たせて作っていただいたのが、もう一つ特徴的だなと思っています。
Designship以外のイベントや文脈を捉える時に、カスタマイズするように解釈を探し、映像を使いこなすことができるようになれば、と考えています。それによって一辺倒ではない「問い」を生むことができると同時に、ブランディングがより広がっていくきっかけにもなると期待しています。
太田:社内的な目線で少しお話しすると、今回のイベント中に栄前田がSNSの運用を行う中で一発目にツイートした内容が秀逸だと思っています。「たくさん『!』と『?』を込めました」という内容なんですが。
社内のリアクションを考えた時に、クリエイティブの高さだけを見て「ゆめみ、おしゃれになっちゃったね。」みたいなネガティブな反応も出るかなと最初は思っていたんです。でも、今回メッセージに込めた問いの部分に思考がいくように考えられた発信だったので、さすがでした。
栄前田:陰褒めじゃない(笑)。でも、そうですね。たしかにネガティブというか、否定的な意見が社内からは出なかったです。それは少し意外でした。みんな何かしらの想いを持っているはずなんですが、そっち(各自の思想や哲学など)にいかなかったな、と。
工藤:ハイコンテクストな問いかけに対しての受容性が組織についてきたのかもしれないですね。
もしあのCMを観て、スッと入ってきたり、何かしら自分の中で問いが発生した人はゆめみとマッチ度が高いとも捉えていて。ゆめみの「らしさ」に近しい要素を持っている可能性が高い。そういうことも言えるかもしれないですね。CMに「成長因子」を詰め込んだ感覚ではいるので。
それがまたこの映像の面白いところだと思いますし、この記事を読んで何かしら心当たりがある方は、ぜひゆめみへエントリーしてみてください(笑)。
---
最後までお読みくださりありがとうございました。
Designshipという大きなカンファレンスでCMを流すことができたのは、今後のゆめみの成長が加速する意味でも、とても重要なことだったのだと考えています。限られた時間の中で自分たちはどんなことを今伝えたかったのか、そもそもCMをみてもらうためにどのような着眼点や情報設計、表現方法に重きを置けばいいのか、企業は色々なことを考え、自社のPR効果を最大化するために試行錯誤を繰り返しながら一つのCMを作ります。
今回、CMを作成しDesignshipに参加した方々に見ていただくことで、ゆめみはリブランディングからブランディングへ移行する中間地点を通過しました。情報過多で不確実性の多い現代において、何をするのが正解かは誰にも分かりません。答えがあるとも思えません。それでも自分たちのやるべきことを見失わずに、社会がより良い状態になるためにできることは何か、考え、実行し続けていく。
私たちゆめみには、そんな想いを持った人がたくさんいます。本記事を読み、共感をしてくださったり、少しでも興味を持ってくださった方がいらっしゃれば、ぜひ私たちと一緒に面白く新しい未来をデザインしていきましょう。